承香院選和歌集 弐







承香院

星合ひの夜、渡らせ給へるに
月影いとけざやかなりつれば
向かはせ給ふ道々のいと白みたりけるを
御覧じて「白き絹の敷きたるやうにぞみゆる」とて
詠ませ給へる

月影に 行く道しろき 星あひは
          たなばたつめの おると見るかも


人のもとへ

音もなかで おもひをるらむ 夏むしの
           たださみだれに きゆるものかは



月みむと まつほの浦の よるなみに
            琴ねきこゆる 夏の夜半かな



ことにめでたき春によませ給へる

春ごとに さりとは見つつ ふたたびの
         花めづるこそ なほうれしけれ



人のもとより文きたるによませたまふ

そことしも かたこそわかね ほととぎす
               鳴きつる声を ききにけるかな



ひさしうあはである人よりうしなどあれば

雲間より 見え隠れする 月影に
        なほあはれこそ まさるとはしれ



うぐひすのあなたこなたより鳴く声のするとて

声のみも よしとぞ思ふ うぐひすの
          若枝のかげも なほみてしがな



宴に忍びてわたらむとて

東風ふけば 匂ひたつらむ 梅花に
          いでさそはれむ 春ぞうれしき








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