夏の薄物の袍
(なつの うすものの うへのきぬ)




平安必須アイテムのひとつ「袍(うえのきぬ)」を縫うことにしました!
この装束を紹介する場合には「束帯(そくたい)」や「衣冠(いかん)」というように
一式揃った状態で紹介されることが多いですが、
今回は、上着部分「袍(うえのきぬ・・・平安名)」にスポットを当ててみます♪

今回の「こだわりポイント」は以下の点です。

◆古い絵巻をよく観察し、平安時代のシルエットに近いものをつくる
◆平安時代の寸法を裁断や生地などから探る
◆平安の中期頃に見られるやわらかく扱いやすいものにする
◆平安時代の着付けに近いものを追求する

です。

近現代では、何人もの手助けがないと着れないものになってしまっています。
これは平安ではあり得ません。

私が今回敢えて書かせていただきたいのは、
この袍と呼ばれる上着は、平安時代の国家公務員の制服で、
一般に「上流貴族」と言われる特権階級だけが着ていたものではないということです。

確かに素材や縫製の良し悪しなどの違いはあったでしょうが、
この類の衣服はかなり下級の公務員でも着用していた形跡があることは
絵巻類を観察すれば一目瞭然です。

つまり、何人もの介添えがなくとも一人でささっと着れなければならないのです。
それが「仕事着」だと思うのです。
そうしたリアルな平安に近づきたいというマニアックな路線で
今回は縫うことにしました☆


紗(しゃ)と呼ばれる荒く織った生地を使いました。
紋様は、尾の長い鳥の丸紋に桐と唐草の紋様です。
つまり桐唐草に尾長鳥丸紋です。

素材は「正絹」です♪


袖ができたところですが、
柔らかく、腕が透けて見えるところが
いかにも涼しさを感じさせます☆
←真っ黒なので変わり映えしませんが・・・(笑)
柔らかい生地質はお分かりいただけるでしょうか。

背縫いが終わり、衽をつける前に置いてみたところです。

       
身幅は実験的に少し細身にしてみました。
私は、個人的には、平安時代の身幅は反物幅をそのまま使っていると考えているのですが、布端の処理を大胆にするなどして敢えて絶つことはせずに、若干細身にしてみました。
(絵巻物に見られる袍のシルエットをいろいろな現物で考察してみたいためです。)

衿や首上の部分も蜻蛉(とんぼ)と呼ばれる
パーツも作っていきます。
紗でつくるの難しかった・・・。

ここは職人さん方は和紙を使ったりするそうですが、
私は、平安の「洗濯しても大丈夫」な装束を
テーマにしていますので、
生地のみで製作しているのですが
今回はこの蜻蛉関連の小物が一番苦労しました。

遺品では桧の薄板を用いて型にして
いるものもあるのが興味深いです。

完成


今回の最も重要なこだわりのひとつは「丈」です。
着丈が、着やすさと絵巻物に見られる着装の様子に
近くなるかどうかの鍵になってくると考えたからです。

結果、かなり良い線を行っていると思います!

まず、下の紅の単の透け具合が美しいです!
紋様もくっきり浮き出るように見えます♪

平安貴族の必殺技
「冠のエイで顔隠し」です(笑)
枕草子などにも書かれていたり
よく見ると絵巻物にもきちんと描かれています!

装束の様々なポーズ写真をあちこちで見ますが、
この平安の必殺技をほとんど見かけないのは残念です。

そして、今回の袍は、ご覧いただいてお分かりいただけますように
着た時の柔らかな感じとむやみにゴツゴツとした感じに
なっていないのがポイントです!


※今回、袍に焦点を当てたかったため「下襲」をつけていませんのであしからずご容赦ください。


今回、駿河守殿初登場で、
ご協力を願いました。
武官の冠をつけていただきました。

ここでは詳しくは書きませんが、
「武官」は腋が縫っていない武官専用の袍を
必ず着ているという様な説明がされていることも
ありますが、厳密にはそうではなく上の画像のような例も多々あります。


太刀をはいていただきました。
お似合いですね
今回の製作は大成功でした。
まず、ひとりで簡単にささ〜っと着れます!!!
朝寝坊な貴族でもすぐに着られますし、
平安必須の「恋人の家に通った翌日」にもささっと着て
仕事に向かえるのです。

そして、羽のように軽く通気性も良いです!
使い勝手がよく、もちろん品格もあり
すべてにおいて当時の人が「これがよい」と思っただろうことが
容易に推察できます。

今回の作品も依頼を受けて、
ある教育機関へ展示出品させていただきました。






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