院別当の君日記


霜月




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霜月月立

物の怪の出づること多くて
わりなしと聞こえたれば
心安からず



霜月二日

めでたき調度ども得てしがななど
のたまひければ、
右近中将、いとめづらかなる調度
あまたある市立つを知りて侍りとて
御車にてまかでさせ奉り給ひつ



霜月四日

権少将、将監、伊勢守、将曹、
刑部少禄などさぶらひける中に
院、おはしまして御楽のことなど
のたまひつ




霜月十日

錦の糸の里といふところに渡らせ給ひて
御楽のことなどのたまひて、
人々調べあはするを
聞こし召してとかくのたまひつ



霜月十三日

奉るべき御指貫縫へと
おほせごとあれば
糸所に言ひつけつるに
糸所、ものすべきことのいと
多ければ、二日程経むに
縫ひはててむと申し開きしたれば
せむかたなしと覚ゆれど
院の奉るものぞと言へば
明日なるべし



霜月十六日

伊勢守、将監、将曹など
さぶらひて夜語りせさせ給ひつ

中宮内侍より御文ありて
宴のことどもをば伝へ奉るめり
はた、内教坊女蔵人より
御文あり



霜月十七日

式部卿より御文あり
冠のことなどいにしへのをかしき
ことども伝へたるを書きて
おこし奉り給へるを御覧じたれば
いと嬉しき心地にてもおはしますらむ



霜月二十日

松刑部卿より御文ありて
をかしきことども書きたるめれば
院、ことに心嬉う思し召したると
見奉れり



霜月二十三日

中宮内侍より御使ありて
宴のことなど申したりつるめり



霜月二十五日

内教坊女蔵人より御文あり
おはしまして舞をば御覧ぜよとあれば
いと喜ばせ給ひつ

さて、内教坊女蔵人、舞ひ給ふを
御覧じたりつるに
さぶらひつる人々も見たりつるに
めでたさになかりつれば
涙落としつつは見つ
楽の音もいとよう
調べあはせて
めでたきこと限りなし
院、いとめでさせ給ひて
「いとようは舞ひつるものぞ
うれしうも覚ゆるかな」と
のたまひつるこそめでたかりしか



霜月二十六日

例にはあらで異所にて
あはれ知るべき宴せむとて
左近中将さぶらひ給ひて
中宮内侍、しのびて渡り給ひつ
源朝臣、らうたげなる女君など
めでたき人々さぶらひ給ひけるに
柱に持たせさせ給ひて
おはしましつ
少し物など聞こし召して
しどけなう物語などせさせ
給ひつる

人々いとをかしき御物語など
あひし給ひて
この宴いとをかしくし果てて
夜も更けぬ









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