院別当の君日記


神無月

この写真は、当サイトリンクにございます「薫風館」様からお借りしております
雰囲気がとても好きな感じだったので使わせていただきました♪

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神無月三日

管弦の御遊びにとて
忍びてまかでさせ給ひつ
例の宮の縁ある所に
おはしましつきて
をかしうもてなさせ給ひつ
小式部内侍さぶらひつ
刑部少禄もはた参りさぶらひつ

厚見式部より文あり
めでたきことありとなむ



神無月五日

権少将、中の江の少納言、
宿直しつ
右近中将、夜も更けぬるに
参り給ひつれば
院にも大殿籠らで
ものなど聞こしめしつつ
空白むまでぞ
ゆかしき御物語せさせ給ひつる



神無月七日

山里に渡らせ給ひつ
前の夜に雨少し降りて、
風の少し強ければ、
匂ひたつ秋の木々の香いと
あはれに覚えつ
外つ国より持てきたる木にて、
この木、古には
この国にはなかりけりと
聞けば、いと口惜しうこそ



神無月九日

検非違使どもあまたして
宴すらむと聞けば
院にもをかしがらせ給ひて
いかで御覧じばやとて
忍びて楽人が衣など
奉りて隠れまかでさせ給ひつ
渡辺宰相、中の江の少納言
などさぶらひつ
いとめでたう拍子したる
女君さぶらひつるも
いとをかしかりぬ
夕さりつかた野分のいと恐ろしうぞ



神無月十三日

亀の戸とかいふなる所に行きて
紅葉のいとめでたきを見しこそ



神無月十七日

大嶋将曹、上野国にしる所あれば
この年のものいとよくなれりとて
もて参りて奉れり
院、嬉しがらせ給ひて
聞こし召しつ
いとめでたくおぼしめして
「御母女院にも」とて
将曹に仰せつるばかりなりき



神無月十九日

興福寺の諸仏おはしますと
聞こし召して、詣でさせ給ひつ
右近中将さぶらひて
御車にて詣でさせ給へり
めでたき御宝いと多かりつる



神無月二十日

野分のいと強う吹き渡れる
この年いと野分多ければ
心騒がる
かく野分多きこといにしへにも
例なしと老いぬる人も言ひけり
右近中将、かかる日には
わりなきこともこそとて
宿直し給ひつ



神無月二十二日

雨降り渡れる日のいと多かりつるに
けふ、いとよく晴れたれば
心地いとようおはしまして
濡れ縁に居ておはしまして
月など御覧じたり



神無月二十九日

楽の御遊びの試みにとて
院、求めさせ給ひたる物あるに
その物ある所へとて
将監、将曹さぶらひつつ
御渡りありつ
調合せるにいとよき
ものにこそ



神無月三十一日

渡辺宰相、真木の君をば
車のうちに率ておはしけり
楽の御遊びあるに、この真木の君
いとめでたうものして、
院、いとめでたうをかしく
思し召しつ
夜さり、宰相、参りて
をかしき事ども申せば
めでたき夜なりつること限りなし







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