院別当の君日記


師走




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師走月立

寒うなりにたれば
色々の御衣ひき重ねておはします
中宮内侍より御文ありて
いとめでたき絹ども得給ひためる

権少将、宿直したりつ



師走二日

管弦の御遊せさせ給ふとて
山におはしましつるに
さぶらひたる人
皆調べ合はすべしとて
ものしたる
将監、将曹二人にて
調べ合はするを
御覧じつ



師走五日

式部卿より御文あり
院、めでたがらせ給ひつ



師走六日

馬には奉らばやと思し召しつるに
中将、わりなきこともぞとて
制し聞こえ、止め奉らむとし給ひつるに
聞こし召し入れで、
馬には奉りぬ



師走十日

権少将、伊勢守などの君達に調べ
合せさせ給ひつる

将監、将曹参りて
院の久しう求めさせ給ひて
あらまほしと思し召しつるを
「御祝事侍れば」
とて奉りつれば
院、いと喜ばせ給ひつ



師走十二日

楽の御遊びの宴ありつ
いとめでたき宴にて
院をはじめ奉り
御車にて参りつる、
三位右近中将も
鼓をば打ち奉り給ひつ
左兵衛督、権少将、小式部内侍も
いとよう調べあはせ奉りて
伊勢守、将監(しょうげん)、将曹(しょうそう)、
少録(しょうさかん)なども
めでたう調べあはせつる
上下皆、音をあはするこそ
めでたかりつれ



師走十四日

院、つれづれに
思し召し出でたることとて
のたまひつること
秋の夜、いづ方の女君にや
らうたき君の宴にさぶらひしことの
ありつるに、この君
あまたの物語知りたれば
皆、ゆかしがりて
「みなのたまひてよ」といへば
みちのくの物の怪の事など
「人にならばやとて
人の知りたる事などをば盗みて
ひとかたへ行かむに
『このこと自ら知りたる事なり
人より聞きて知りたる事
にあらず』とて
あさましう言ひさはぎて
われはとて
人の智、才をば盗むことあり」
といふことを聞こし召して
「あなうたてや
さしても人には
えなるまじきを」と
かたはらいたく思し召して
のたまひつれば
さぶらひつる御方々にも
むべなりと承りつること
ありしに、
陰陽師参りて
この物の怪、院のうち
いかでとてあながちに
見入れ奉りたるしるしあり
と申したり
餓鬼などのやうに
いかに盗まむにも
あくことのなかるべき
物の怪をば
人皆、かたはら痛く
見たるめる
といふことのあるとか



師走十九日

内膳、まうのぼりて、
さぶらひて、
清めのものとて
炭のやうなる
験あるなるものなど奉りたりつ
夜語りなどせさせ給ひて
おはしましつれば
右近中将さへ参り給ひて
めでたき夜にぞ



師走二十日

中の江の少納言参りて
賀し奉ることありとて
宿直しつ
めでたき楽のことなど
物語したり



師走二十二日

権少将参りて
はた、賀し奉ることありとて
宿直せり

この後も、二日三日
院をば賀し奉るべき御ことあればとて
小式部の内侍まうのぼれり
左兵衛督、式部の君などよりは
御文参らせたりつる



院、ものせさせ給ふべきことども
いと多かりぬれば
少し悩みがちにておはしましつ
いづかたも
この程はさありつべし



師走二十六日

渡辺宰相、真木の君
宴し給ひたれば、
院、忍びておはしましつ



師走二十八日

清めてむとて
右近中将
参りてとかくし給ひぬ



師走二十九日

御祓、清めのことなど
設くべきことどもありとて
忍びて渡らせ給ひつるに
中宮内侍、左中将さぶらひ給ひつる
御車にておはしつれば
極めさせ給はむとしたる道の
事などものせずはわろからむと
思し召して
夜更くるをも忘れさせ給ひて
御語らひなどしておはしましつ
雪などもめでたう降れば
皆人あはれに興じ給ひつ

御祓のことどもなどもせさせ給ひぬ




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