袿(うちき)

紅丸花紋袿
(くれないまるはなもんのうちき)

戻る                      目次

今回は、再び「袿(うちき)」を製作しました。
通称「十二単」で知られる装束に表着として用いられるものです。
ただし、前回までとは異なるのは
今回は正倉院、中尊寺、鶴岡八幡宮に残されている平安時代前後の遺品から、
平安時代の袿の形と思しきものを復元してみたところです☆
製作過程




スソ縫い
背縫い
脇縫いが終わったところです。

布は、紅地で三色で花の紋が浮紋で織り出されているのを使用しました。
地紋はいわゆる「はなだ色」で七宝繋ぎが織り出されています。

非常に柔らかい生地で、生地にノリは全くついていません
平安の萎え装束にはもってこいです♪

裏地は、渋い紫を使いました♪






地紋が紅地の反対色系統の
糸で織り出されているので、
光の当たり方でだいぶ印象が
変わってきます。

   
 

光のあたり方でこれだけ色合いが変わります。

 



袖付けの前まで完成した写真です。


「被服構成学」ではすでに
定説のようですが、古典文学の世界ではあまり重きが置かれていない「現代の袿と平安時代の袿の違い」として以下の点が挙げられると思います。

@ 袖に「振り部分」がなく身頃にがっちり縫いつけられている。

A 身頃幅が布幅いっぱいまで広くとられている。

B一反の布でひとつの袿が完成するようにできているため、左右対称ではなく、無駄なく作れるように裁断・縫製されている。

C布幅が現代の反物よりも広い。
 遺品データから考察すると、現代の装束用布反物(約45センチ幅)より5センチ程度広いものであったと考えられる。


つまり、見た目のみの美しさだけではなく、サイト内で何度も指摘しているように、
実用性、機能性、経済性が第一に考えられている上での美しさなのです。
文字通り「無駄のない」美しさです。


ちなみに私が平安に惹かれる理由がこの「無駄のない美しさ」です。
一見すると無駄に見えるものがすべて実用に基づいているのです。



細かい所ではありますが
身頃(みごろ)幅と衿(えり)の
形状が現代の袿とはだいぶ異なります。

現代の袿に見慣れてしまうと、こちらの形が
不恰好にすら見えてしまいますが、重要なのは着装したときのシルエットです。

和服は着る前は「2D(平面)」ですが、
着装した瞬間に「3D(立体)」のシルエットに変わります。
袖の形や全体的なシルエットが平安絵巻のそれになるのです。

「絵巻は誇張されている」とか
「抽象化されている」とか言う人がいますが、
実は、絵巻ではとりわけ、個個のパーツについては、驚くほど写実的に描かれているのです。

袖を縫いつけたところです。

写真でもお分かりいただけると思いますが
今回はとても柔らかい生地を使いました。
いわゆる「萎え装束」です。
生地にノリが全くついていませんので
着心地は最高です♪
やわらかくサラリとしています♪

現代の装束とは異なって、今回の袿は
まさに平安の柔らかさと言えるかもしれません。

ちなみに、この袿は手持ちの装束と袷せて
着装する予定なため、襟が現代の袿と合うよう、泣く泣く現代風に始末しました。
いつでも平安復帰できるようにはなっていますが♪




光の角度によっては、紅と銀の混ざったハナダ色に
光って見えます。

国宝源氏物語絵巻などでは、装束部分に銀粉が使われています。
光の角度によって装束の色合いが変わって見えるような効果が
ありますが、この袿はまさにそのような感じです。


着装の様子

駿河内侍(するがのないし)殿と七重勾当内侍(ななえのこうとうのないし)殿に
今回制作の「くれなゐの袿」を着ていただきましたので、着装のお写真を是非ご紹介いたします。
七重勾当内侍殿です
生地がとても柔らかくしなやかな感じなので平安
中期頃の風合いにとてもよく似ていると思います
←今回の袿は、特にこの座った姿が
  重要です!
  まず、布の質感、そして古式の形が
  当時に近いシルエットを醸し出していると
  思います♪
承香院で制作した袿類をひき重ねてみました
襟もとのゴージャスな感じに注目です!
裾の重厚な感じも、実際に袿を何枚も重ねている
ことがよくわかるように敢えて強調してみました
今回に限っては特に重ねの色目はこだわっていません。
平安時代ではこだわりのポイントではありますが。
ただ、和服類の「興味深い不思議」なのですが、
何色を重ねても、また何色を組み合わせても着装すると基本的に美しい色合いになるのは不思議なことですね♪


続いて、駿河内侍(するがのないし)殿の着装の様子です
今回は手には蝙蝠扇(かわほり)をお持ちです
生地の柔らかな質感がとても美しいシルエットを
出していると思います
「紫の小袿」を重ねた七重勾当内侍と、
くれなゐの袿を着た駿河内侍と一緒に
平安的には、このように扇で顔を隠して
紫の小袿をひき重ねてもらいました
承香院で縫われた単衣や袿を重ねてみました♪
襟元の華やかさや、袖口、足元のシルエットが
本当に素晴らしい感じでした!

実は、今回の七重勾当内侍殿と駿河内侍殿の
撮影については、わざとらしい感じにならないよう
撮影時に特別に裾を直して整えたりしていません。

普通に歩いたり座ったりして動作をしてもらった
時にそのまま撮影したものです

より平安の日常のシルエットに近づいていれば嬉しいです♪




もどる






もどる                      目次