平安時代の直衣を復元!  二藍 薄物の 直衣
(ふたあい うすものの なをし)

平安時代当時(一条天皇朝辺り時期)の形状と着心地、
サイズなどを復元した直衣を復元製作しました!

 




今回で3つ目となる直衣の製作ですが、これまでの遺品を元に考察した製作で、
かなりいろいろなことが分かってきました。

平安時代の装束、特に平安王朝文化で必須装束である直衣(なをし)の当時の形や
色彩、寸法や、縫製方法などを考察する上で、非常に重要な点が幾つかあります。

◆絵巻物のシルエットに近いこと
◆反物の幅や、必要量との関係
◆着装に当たっての実用性
◆生地の硬さや着心地

です。なにせ、当時の人はほぼ24時間、どの季節でも着ている装束だからです。

以上の点から以下のことにこだわって製作しました。


◆柔らかい紗の生地で製作する。
  (当時のシルエットと着心地を再現するために最も重要なポイントのひとつです)

◆反物の規定のサイズから裁断を行い紋合わせなどはしない。
  (見栄えのために生地を余分に使わない)

◆絵巻物の復元などから明らかになった当時の色彩に近づける。

◆糊を使わない。
 (当時の布端の処理は古い遺品などから糊を使わない「糸ひねり」だったと
  考えているからです。確かにこの技法なら、外出時に雨にぬれても大丈夫です。)

 

ちなみに「直衣」の読み方ですが、一般的にも受験などでも「のうし」と読ませていますが、
語源や古文書のかなからも「のうし」というのは正確ではないと私は考えています。
最近では、わたしは「なをし」と読みも書きもするようにしています。
これまでUPしてきた直衣には「のうし」と読ませたり「なほし」と書いたりしてますが、
その変は、研究成果とともに変わるものということでご容赦ください。




今回は、「やわらかい、なよなよとした紗を使うこと」を非常に重要なポイントと位置づけました。

 




今回は、「やわらかい、なよなよとした紗を使うこと」を非常に重要なポイントと位置づけました。

復元された国宝の源氏物語絵巻を見ても、装束はフワっとした絵で描かれていることが確認できます。
シルエットと着心地にこだわる以上は、ここを妥協するわけにはいきません。
   (資料 復元された 源氏物語より)
また、昨今の科学技術の発展から復元された当時の夏の直衣の色彩が確認できます。

諸説ありますが、やはり見た目に涼しい色で、当時
夏の染めものとして当然使われていたものだと思われます。

私は、現在「二藍色(ふたあい色)」と紹介されていることが多い「藍と紅」をあわせた幅の広い色を示すとする説は絶対に違うと確信しています。

当時の人は、遠目にも「一目で『それが二藍色だ』と断定しているのです。
今一般的に言われている二藍色は、赤っぽい色から青っぽい色まで含んでいて、紫にも見えたり、何がなんだかわかりません。

そもそも、反対色を幅広く「●●色」と雑にひとくくりにすることなど絶対にあり得ません。ものの名前と言うのはそもそも、「ものを特定したり、限定したりするため」につけられるからです。

ちなみに、今回の直衣の色は、私の考える「二藍」よりは少し淡い色だと思いますが、そこは好みを優先させて妥協しました(笑)
近代有職にいわれているような年齢で色を意識したということではありません。ただの好みです。自分の着る物ですから平安の貴族達も好きなものにしたはずです。
ただし、絵巻物み見られる色合いからはそれほど離れていないと思います。「遠目に見てもそれと分かる」範囲したつもりです♪
 

袖と身頃が出来てきたところです。

今回は、「出来上がりサイズ」にも
かなり詳細な考察をしました。

近世以降の直衣は、丈が長すぎるのです。
「絵巻」と「現代の直衣着装画像」をいくつか
見比べて見ると違いは明らかです。

特に以下の点に注目して見比べてみてください。


◆立ち姿の直衣の丈
◆胡坐(あぐら)をかいて
  座っているときの丈の
  シルエット (特に前)
◆後ろの「はこえ」部分の
  シルエット
(足がどれく
   らい見えているかなど)

気にしないと、見過ごしてしまうかもしれませんが、
それはもう全然違います!

これらはほとんど丈の長さが原因です。
丈をきちんと調整して、裁断すれば当時のシルエットに近づきます。また、当時反物は好きなだけあったわけではなく、一定の長さの反物から装束を作っていたはずです。従って、そういうことにも留意すれば、おのずから丈の長さが決まってきます。

特に座り姿ですが、古い絵巻を見ると、直衣を着て座っているものの場合、前に三角形の角のようなものが2つ見えることが多いです。
(資料・紫式部日記絵詞より

ところが、「現代の寸法の直衣」を着るとそうではないのです。
 
(直衣製作途中)身頃部分まで出来てきたところ
 
「ありさき」部分を古代の形に作りました。
 
ほぼ、完成に近づきましtが、まだ袖付けなどをしていません。

もうひとつのこだわりは、いわゆる「ありさき」部分(裾につけてある布)の形状です。

現代の束帯の袍や直衣の「ありさき」部分は上部がななめになっていますが、平安・鎌倉時代などのものは形状が違います。

明らかに「形状が違う」のに、近世以降の形のものを平安時代の装束として普及していくのは、平安好きとしてはかなり複雑な思いがあります。
これは、平安時代の遺品が残っているか否かに関わらず、残されている絵画などからも明らかに形状が違うのです。
(資料・年中行事絵巻より)
今ここで示した絵巻は束帯の袍のありさきですが、直衣も同じです。
 


完成!!
袖が薄く赤く見えるのは、
下に重ねている紅の単が透けているものです。
不思議な色合いに見えますね。

きちんと着付けずに、ただマネキンに引っ掛けて、
腰紐で結んだだけです。

当時の寸法にしたてると、
いとも簡単に着ることができることが実証できました!

これならさっと着て腰紐を結ぶだけで、絵巻物に
見られるようなシルエットになります。
 

二藍(ふたあゐ)の直衣(なをし)の着装 
   

やわらかで、軽くて、本当に着心地がいいです!
向かって左の肩から腕にかけてのシルエットをご覧ください。まさに、絵巻に見られる柔らかな平安のシルエットです。
束帯の袍とは、明らかに丈が違い、この点でも古い大和絵や絵巻物に見られる直衣(なをし)のシルエットです!

うっすらと透ける下着の色合いなども素敵ではありませんか?

大満足な仕上がりになりました。

もちろん、着付けなどと呼ぶようなややこしい着方は必要ありません。この寸法と縫製なら、さっと着て、ささっと腰紐を結べば、いとも簡単に着ることができます。
まさに、平安の日常着です!
 →
この後姿をご覧ください。
さっと着て、振り向いただけで一切整えたりしていません。
全体の柔らかな感じ。
さらに、「はこえ」部分にみられる折れ皺、
袖のシルエット、
さらに、袖からこぼれ出る下着の袖のシルエット、
まさに古い絵巻物などに見られるシルエットそのままです!

そして何より、華やかで涼しげではありませんか。

    
(復元された国宝源氏物語絵巻より)
 
   ←

光の感度自体は上げてありますが、
月明かりの明るい夜に、二藍の直衣で外に出てみました。
絵巻物に見られるように、『白い帷子(かたびら)の上に、ただ直衣ばかりを打ち着て』月明かりに照らされてみました。
なんとも涼しげで幻想的な色合いでした。
(暗いためすこしピンボケになってしまったのが残念!)



何でも実践です(笑)

月明かりで、二藍の直衣を着て、笛を吹いてみました。 
 
これからも実践重視で、ニュートラルな視点で、
平安の文化を見つめていきたいと思います。
この二藍の直衣で新たにいろいろな実践が出来そうです!  
   
   ←
平成二十七年十月、今回製作した「二藍薄物直衣」が
都内の教育施設にて展示されました。



戻る                     目次へ

TOP