文月
文月月立
仰せ事ありて
中宮内侍、左中将に見えつ
筝弾きなどし、碁などうちて
をかしきことどもしたりぬ
物語しつつは、とみのものなど
縫ひて、少し縫ひ損じて
口惜しがり給ひたる気色なども
をかしく覚ゆ
文月三日
御法のことありて
実山永相院が御縁ある人々
参りてものし給ひたりつ
文月六日
大事あらむはとて
院みづからおはしまして
心まうけこそはせさせたまはめとて
ものしたる
文月七日
星合の楽の御遊びあり
文月十二日
沖つ白波の立ちけりとて
騒がしう心悩みておはしますこそ
わろけれ
文月十四日
院蔵人、宿直して
物語などせさせ給ひつ
あかつき方になりつれど
起きおはしまして
をかしきことどもせさせ給ひて
いと嬉しげにおはしますめり
文月十七日
小式部内侍
いかで院に御渡り
賜はらばやとて
ものしたるを
少将さぶらひて
御渡りあり
めでたきものなど
あるじまうけして
めでたがらせたまひぬ
文月十八日
何のゆゑにや
いと悩ませたまひて
いと篤しうおはしまして
われかの気色にはおはしましたり
少将、御文など奉りわたりて
よからむをば願ひたてまつりたり
院蔵人、夜も更けつるばかりに
参りて宿直したり
まめまめしうものし奉りたれば
病おこたりて
少しものなど参りておはします
文月二十日
病がちにておはしたればにやあらむ
すこしながめくらしたるやうには覚ゆれば
後ろめたう覚えつ
文月二十二日
病おこたりがちにおはしまして
少し笑わせ給ふ気色なども
見奉ればうれし
心ある人など宿直したり
文月二十三日
左兵衛督より聞こゆることあり
とて夜も更けぬるに啓することあり
右近中将、宿直して近く
さぶらひたれば仔細を聞き給ひて
にはかにいと怒り給ふことあり
地、いとこそ揺れたれ
何の神や怒らせ給へるにやあらむ
人々いと驚きさはぎたり
真木の君より御文ありて
大事やなからむとて
心もとながりたりけり
文月二十四日
大殿籠らでおはしませば
少し悩みがちにておはします
中の江の少納言より御文あり
歌枕見にまかりたるとかや
文月二十五日
夕さりつかた
雨いたう降りて
風もふきたれば
おそろしと見たるに
院、庇に出でさせ給ひて
清めたる心地なむすると
のたまへば
あやしうさは覚えたれば
をかし
文月二十六日
ものせさせ給ふこと多ければ
少しやつれおはしますこそ
うしろめたけれ
文月二十九日
蔵人、ちかうさぶらひて宿直したり
文月月籠
真木の君より御文あり
管弦の遊びしたりければ
しのびておはしませとぞ
楽の御遊びの試みにとて
人々参りて
中の江の少納言、のぶひさの少将
左兵衛督、
刑部大丞、大蔵大丞、
小式部内侍、宣旨の君などさぶらひたり
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