月夜見の琵琶「現代語訳」

注意

だいたいの意訳です。古典の勉強ではないので、
歌の細かい技法などは極力省き
掛詞など、意味を汲みとる上で必要なもののみ簡単に解説する場合が
あるという程度にしたいと思います。


 「月夜を見る日は」「つくよみの琵琶」
          



   
     院の御所の宝物のひとつとして「つくよみ」という、とても素晴らしい
     琵琶がありました。

     ある日、右近の中将が、用事があったので院の御所にお伺いしたところ
     東の部屋の一角に若い貴族達が大勢並んで座っていらっしゃって、
     あれこれと御話をされていましたので、右近の中将もお入りになって
     お話をされていました。

     夕方になってきた頃に、院が紅の御袴に白い上着を重ねて、くつろいだ
     格好で、来られました。
     院が

     「今宵の月は、とても素晴らしいなぁ。こんな素晴らしい夜は
     何をするのがよいのだろうか」 と仰ったところ
     若い貴族達は、趣深い過ごし方をあれこれとご提案申し上げるのですが、
     右近の中将は「少し(お待ちを)」と部屋の奥に入られ、壁際のところに
     立てかけてあった(つくよみの)琵琶をお取りになって、


     これならで つきづきしきは しらぬひの 音をつくしてよ 月夜見のひは

     掛詞  これならで・・・なり・鳴る つきづきしき・・・つきづきし・月 
          しらぬひ・・・知らぬ・不知火(枕詞) つくし・・・筑紫・尽くし
          月夜見・・・月夜を見る・琵琶の名前の「つくよみ」
          ひは・・・日は・琵琶

     歌意  これでなくては(このつくよみの琵琶が鳴らなくては)、
          月に似つかわしいものは他に知りません。
          この琵琶の音を尽くしてください。月を見る夜という日は。
          このつくよみという琵琶で。


     といって、琵琶を院にお渡ししたところ、
     院はお笑いになって、
     手紙を入れる箱のところにあった琵琶の撥をお付きの従者に
     取り出させて、持たせられて、
     「それならば」と仰って

      これならば 月見る夜にぞ なりぬべき 音をばいづれのはち(撥)に出づべき

               不知火のはちはちと燃ゆるなるをまかでて取りてこましを

      掛詞   なり・・・鳴る・なる

      歌意   この琵琶なら月見の夜にふさわしく、この撥ならば月夜見の琵琶も
            音を鳴らせよう。
            琵琶の音を鳴らすのに、どの撥を使おうかなぁ。

            (右近の中将の詠んだ歌に出てきた)
            筑紫の国に出るという「しらぬ火」もバチ(撥)バチ(撥)という音を立てて
            燃えているらしいので、それを取って来てその「バチ」も使ってみたいなぁ
  
      と仰ったので、皆、お笑いになりました。




        〜補足〜


     ※ 「しらぬひ」には諸説あり、奈良時代の発音の関係上「不知火」のことではなく
        都から筑紫まで「しらぬ日(何日かかるかわからないほど遠い)という意味だと
        する説などもありますが、ここでは、どの説をとるということではなく、
        楽しんでいる席なので音の似た語を使って言葉遊びをしている
        と理解していただければ幸いです。

        また、歌について、同じ音を何度か用いるのは良くないなど、
        歌病などの関係も少し関わりそうですが、古典世界においても
        物語を読む限りでは、昔から「歌病」は「うっとおしいもの」として扱われていたようですので
        この院の御所においても当然「歌のうるさい決まりごと」によって
        歌の良し悪しが決定されるのではないという院の特別ルール(笑)で
        話が進んでいるものとしてください(笑)。
  



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