院別当の君日記

平成十九年


睦月 如月 弥生


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睦月



正月ひとひ

おおつごもりより
衛門督、のぶひさ少将、下野刑部など
さぶらひて藤相模の君さへぞ
院にさぶらひたる
右近中将、大祓にものすべきこととて
安房のかたへまかでたるに
つとめて参りにたり
上下なう物語しつつ
笑ひなどして過ぐさせ給ひつ



睦月七日

管弦の御遊びありとて
試みこそせめとて
義将衛門佐、申したれば
さらなりとて例の御所におはしまして
衛門督、衛門佐さぶらひて
せさせ給ひつ



睦月十一日

院には御心悩ませ給ふことありとて
刑部いと後めたがりて
御文など奉りたれば
嬉うおぼしめして
はつかにぞ慰みておはしましつる



睦月十三日

まさひろ前左兵衛督
歳初めに言祝ぎ奉るべしとて
御ふみあり

西の女院、ものつきておはすめり
御心いと悩みておはします

ものせさせたまふこといと
多くておはします
衛門督ひねもすさぶらひて
つかうまつりたり



睦月十五日

少しなやみがちにておはしますに
例の御所におはしまして
衛門督、衛門佐さぶらひて
管弦の打ちあはせなど
せさせたまひつ
調べ合せたるほどばかりは
心慰みておはしますめり



睦月十八日

管弦の御宴ほどなしとて
身をつくしの弾正、大外記など
まうけしたりときこゆ



睦月十九日

少将、宿直にさぶらひたり



睦月二十一日

管弦の宴あり
天晴
うるはしうせうぞきて
あしたより御覧じたるに
君達あまたさぶらひて
調べ合せたり
いとめでたきこと限りなし
昼つかた、右近参りて
院のせさせ給ふ音に
調べ合せたり
右近中将をはじめ奉りて
うるふ衛門督、のぶひさ少将、
義将衛門佐、身をつくしの弾正
大蔵輔、下野刑部、
澤山大外記
まさひろ前左兵衛督、
小式部内侍、藤相模、
院宣旨など
君達、女君、皆さぶらひて
めでたき様なり

宴果てて後、
博士ふたりおはして
右近中将、少将
前左兵衛、小式部内侍さぶらひて
物語などせさせたまひて
いづれが音をめでたう調べたるやなど
のたまひなどして
夜もふけぬ



睦月二十五日

衛門督、宿直にさぶらひたり



睦月二十六日

衛門督ばかりさぶらひて
例の御車にはあらで御むまにて、
忍びてまかでさせ給ひたり
御衣など得させ給ひたり



睦月二十七日

ものせさせ給ふこといとおほしとて
昼の御座におはします
音をとるべきことありなどのたまひたり



睦月三十日

刑部、宿直(とのゐ)にさぶらひて
よもすがら物語などしたりつ



如月



如月二日

丘なる出湯といふなる
にぞ御渡りせさせたまひぬ
大蔵輔が御車に奉りて
衛門督、衛門佐、大蔵輔
弾正、大外記、院宣旨などさぶらひたり
外はいと寒きにいと湯の出でたれば
いとをかしう御覧じたり
されて例の忍びてのおはしましなれば
来る人など御渡りとはつゆえ知らじ

唐の薬草など調じたる室に
籠もりおはしまして
衛門などさぶらひなどす

岩のいと大きなるに
出湯いと広ごりたれば
入らせたまひなどして
上下いり乱れたるさまを
をいとめづらしうこそおぼゆれ

出湯より出でさせたまひて
しどけなう御衣ども奉りて
東を上にゐておはしますに
君達さしつどひて除目がことなど
ものしたり
夕さりつかた、下野刑部参りてさぶらひにたり



如月八日

大蔵輔、御車にて参りて
ひとつながらに奉りて
管弦の御遊びあり



如月十日

この年の公事など
けふけじめとて
宴あり
衛門督などものしたり



如月十四日

昼つかたより
雨のいたう降りわたるに
例のすきたる御心ゆえにや
黒毛の御むまにて
義将衛門佐をばひとりさぶらはせ
させ給ひて市ヶ谷といふなるへ
駆けさせ給ひけり
管弦が試みをば
せさせ給はむとおぼしたるに
などかくつらきわざせさせ給ふなど
人の諌め奉れど、
かうこそよかりしかなど
のたまひて笑はせ給ひぬ



如月十七日

仰せたりし御袿
糸所にて縫い果てたるよし
きこしめしたれば御覧じ入れたるに
いとめでくなりにたれば
いとよろこばせ給ひたり



如月十八日

いにしへの暦に
正月なれば
うち詣づべしとて
金剛が御山には詣でさせ給ひつ
大蔵輔、御車まうけて
衛門督、義将衛門佐、
弾正、下野刑部、院宣旨さぶらひて
行ひせさせ給ひつ
いとたうときことなるべし



如月十九日

小衛門いとうつくしうて
されたるに
いと笑はせたまひて
右近のわたりに参りて
みよなど仰せたるもをかし




弥生



弥生十二日

吉祥が御寺にまうでさせ給ふに
大納言殿おはして、古き文など
もとめむとて
もろともにありかせ給ふ



弥生十四日

信濃が御寺へも詣でさせ給ふとて
渡らせ給ひぬ
山に籠もりおはして
楽の御遊びせさせたまふに
さぶらひたる御方々、君達など
上下なう楽奏したるこそをかしかりしか



弥生十七日

渋谷とかいふなるに
忍びておはしまして
楽の御遊びせさせ給ひつ
この国のになき大学に
教へたる博士笛などいとめでたう
吹きたるに調べ合はせさせ給ひたり
義将衛門佐さぶらひて
調べあはせたるもいとめでたかりぬ



弥生十八日

御むまの病なりとて
厩の薬師といふなるに
やりて加持などしたるときこゆるに
病おこたりていとようなりぬと
聞こし召してよろこびておはします
御てづから御厩に率ゐて
おはしましたり



弥生二十日

御目にわりなきことありと
のたまひたれば
上下うしろめたうおもひて
零疾駆とかいふなる術
あるよし申したるに
御目ひとひ見入れ申させ給ひためるに
大方のまなにあらずとて
おぼしとどまりにたるめり



弥生二十六日

いとめでたき文いれたる草子ありとて
例の御所におかせ給ひたり



弥生三十日

小衛門が調度など賜ひたり











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