院別当の君日記



皐月



皐月月立

方違へに少し東つ方におはしましたり



皐月二日

楽の御遊びに例の御方に
おはしましたり
のぶひさの権少将、
巌の将監(しょうげん)
森陰陽大允(おんみょうのたいじょう)
大嶋の将曹(しょうそう)
山中刑部大丞(ぎょうぶのたいじょう)
神部大蔵大丞(おおくらのたいじょう)、
宮の田の衛門大尉(えもんのたいじょう)
宮部宣旨(せんじ)など
人々あまたさぶらひて
めでたき調べ合はせおはしましたり



皐月四日

仕ることあればとて
駿河守のまうのぼりて
院には参りつれど
はや大殿籠りたれば
え見たてまつらで
かたはらいたうも
覚ゆるかな



皐月五日

高田小宰相の君より御文あり
熊野詣し給ひたりけるとぞ



皐月八日

上臈さぶらひて
御遊びなどし給はむとこそしたりつれ
日よろしからずとてやみ給ひつるを
聞こし召して心もとなう思しためり
小宰相、右近中将などぞ
心もとなうおぼえためり



皐月十一日

楽の御遊びの上手とて
名にし負ひたるひと
御遊びしたると聞こし召して
忍びて渡らせ給ひつ
小式部内侍、
刑部大丞、宮部宣旨
大蔵大丞などさぶらひつ
いとめでたき調べにて
あはれにいとをかしかりぬ



皐月十二日

なめきことありとて
いと悩みておはしますこそ
うしろめたうくるしけれ



皐月十四日

厚見式部、工藤陸奥守
御宴まうけすべしとて
さるべきはかり事し給ひつれば

おはしましてご覧じて
思し召しつることども
のたまひつ



皐月二十日

院、少し悩みておはします御気色に
こころみにとて黒毛にたてまつりて
御狩の御衣にて野駆けなど
せさせたまひつるに
いとあやしき検非違使の
いふかひなきが
近く寄りて
いとなのめに止め奉りて
「疾きこと過ぎたり
これに居てはべれ」など
もの聞こえさすれば
賤しき声に
いとど悩ませ給ひて
ご覧じたるもの
まわりて見えたりと
いとつらくおはしましぬ
この検非違使
たべとかいふなる
「賜べとは名さへにくし」と
思し召して
腹立ちておはしましぬ
あさましきことに
篤しくならせ給ひて
われかの気色悩み給へば
権少将駆けまうのぼりて
さるべきこと仕りたれば
少しおこたりておはしませば
さぶらふ人々心安んじたるめり



皐月二十二日

厚見式部、工藤陸奥守
めでたき御宴ものし給ひつ

院、御渡りておはしましたるより
右近中将、内膳
三鷹内侍、小宰相、
近衛の君達など居並みて

少し時経るほどに
渡辺宰相、まきの君
前相模守、前近衛中将
女君、楽人など
春の花の盛りとこそみゆれ



皐月二十六日

世の中、沖つ白波の
立つことありと聞こし召して
少し心さはぎて
おはしますめり

中宮内侍より御文あり
方違へのことなど
ものしはてたるとかや



皐月二十八日

謀反の大事ありとて
諸将ものしたり



皐月二十九日

神部大蔵大丞
上野国わたりよりとて
いとめづらしきもの持て参りて奉りつ
さしみこんにやくとかいふなる
御物参るに、院には
好ませ給ひていと
うれしげにておはしましたり



皐月月籠

もののけさへ出でたりとて
さるべき人々ものしたり
大蔵大丞さへぞものしたる
将曹、刑部大丞、加持祈祷など
ものして、
宮田衛門大尉、六位蔵人に任きて
院の宿直などし奉りたり












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