院別当の君日記

平成二十一年



正月  如月  弥生 



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睦月一日

新年が祝賀のことなどあり



睦月二日

こと様にものせさせ給ふべきことども
あれば、院にはおはしまさで
ためしなきことなれども
うち出でさせたまひて
こと所におはします
「とうの何とか」と言ふところなり
菊池陸奥守さぶらひつ



睦月五日

正月二日よりものせさせ給ふべきことあれば
院にはあらで異所におはしませば
けふかへりおはしましつ



睦月六日

めでたき香どもあはせむなど
仰せごとありて香合あり
薄紫の御直衣に萌黄の指貫にて
いとめでたうおはします
長内相模守が御車のうちに
奉りて忍びておはしましたり

あまた君達女君など装束してさぶらへば
いとめでたし
神戸大蔵輔(かんべのおおくらのすけ) 盡弾正弼(つくしのだんじょうのひつ)
のぶひさの近衛少将(このえのしょうしょう)、義将左兵衛督(よしまさのさひょうえのかみ)
菊池陸奥守(きくちのむつのかみ)、松修理亮(まつのしゅりのすけ)
長内相模守(おさないさがみのかみ)、相川治部少輔(あいかわえじぶのすけ)
高嶺少納言(たかねのしょうなごん)、正太陰陽博士(しょうたいおんみょうのはかせ)
大西造酒正(おおにしみきのかみ)、須永典薬助(すながのてんやくのすけ)
横尾衛門尉(よこおえもんのじょう)

女君
七重勾当内侍(ななえのこうとうのないし)、宮辺院宣旨君(みやのべのいんのせんじのきみ)
朝倉内侍(あさくらのないし)夏の駿河内侍(するがのないし) 
平井命婦(ひらいのみょうぶ)、川澄尚書(かわすみのふみのかみ)
三橋尚兵の君(みつはしのしょうへいのきみ)、藤田内膳(ふじたのないぜん)
少輔ゆかりの君(しょうすけのゆかりのきみ)、なるしろの綾音の君
など
人いとあまたさぶらひつるに、沈、麝香などいとめでたき香ども
御手づから調じさせたまひていとめでたき香など
為しておはしますこそめでたけれ
さぶらひつるにあまたの香どもたまはりて
さぶらひつる君達女君皆調じたるもいとをかしかりつ
梅香、黒方、侍従などいふもしなしたり
めでたき香どもいと匂ひて浄土もかくやなど
こそ覚ゆれ



睦月十五日

外つ国より婆利井波里須などいふ人参りたり
いとめでたく楽のことしたるなど名にし負へば
いでさせ給ひてその術など得てむとて
申すことどもまめやかに聞こしめしたり



睦月十六日

はた楽のことなど
せさせ給ひたり



睦月十七日

いとなめき賎しき衛士の
参りて、あからさまに大殿油
消ちて歩きたるに
君達怒りてとがめたりつるに
わりなきことありて深手負ふもよしなど
あさましきことども衛士の言ひたるとかや
大蔵輔聞きていとど怒りて
立石とかいふ衛士が頭にもの
言ひたるにあさましう空事など
いひたるとかや
聞こし召して怒らせたまひて
さるべき沙汰すべく仰せ事あり



睦月二十四日

つくよみの琵琶のことなど
いとめでたき琵琶と聞こえて遠国より
文おこしたる人あり



睦月つごもり

かたうとかいふ遊女ありけり
楽の御遊びめでたしとおもひたりけむ
山に出でて楽の御遊びに
出できたることありけるに
その親鬼なりけり
ものとらむ
くがねをばとらむとて
高嶺少納言などに
あさましう罵りてありければ
朝倉内侍いと驚きてうちてうじたるべしとて
平井命婦などある限り、調伏の祈りなどしたりければ
消えたりけり



如月



如月一日

管弦の御遊びあり
赤き坂の何とかといふところに
御渡りあり
上下、人あまたさぶらひて
ひねもす管弦の御遊びあり



如月三日

大蔵輔など外つくにへ
まかでむとするに
そのよしふみにてせうそこあり



如月九日

大納言殿より梅が香をば
かごとにて御うたあり
をかし



如月十七日

修理亮、いとなのめにものうち言ひたるを
怒らせ給ひてなどさはなめきなど仰せたれど
さにあらず さおもはずなど否といふこと
のみ申したればいとど怒らせ給ひつるに
義将左兵衛督なども参りてさぶらひつ
しばし程うち経たりつるに
心あしくなむはべりたりつるなど言ひて
贖ひし奉らばやなど申せば
さらばとて御許させ給ひつ



如月二十二日

中の江の少納言より院に参るよし
にはかに申したれば御許しありて
参りたり
ひさしう見奉らであれば院にも喜ばせ給ひつ



弥生



弥生四日

信濃国なる御寺に詣でさせ給ひにたり
君たち女君あまたさぶらひて
御車にて出でさせ給ひつ
さきに詣でたりつるほどは
御悩み深くておはしましたれば
こたびこそはなど思し召したるめり



弥生七日

信濃国におはしまして管弦の宴せさせ給ひつ
御忍びにて御衣どもしどけなう奉りて
いとをかし
さぶらひつる限り調べあはせたり




弥生十一日

ものつきたる衛士ありとか
小野の寺にありしなど言ひたれど空言にやあらむ
なにの故にやあらむ、例の御所にいできて
管弦の音にくしなど言ひて障り為さむとしたりぬ
がくしゃうあまたあるほどなれば、
がくしゃう司などいふ司あるに、
この司いとをこのものにて
空言とはしらでものつきたる衛士が言ひしことども
ばかり心得てあさましうさはぎたれば
いふもおろかなり



弥生十三日

がくしゃう司あさましくさはぎて
朝倉内侍、三橋尚兵の君など女君など
局に籠めなどしたり




弥生二十三日

しのびて出でさせ給ひたりつるに
厚見命婦さぶらひぬ
高き何とかといふ馬場などいふほどに
出でさせたまひて御かちにて歩かせ給ひにたるに
夕さり、赤き坂などいふところに御わたらせ給ひて
管弦御覧じたり




弥生二十五日

管弦の遊びしたるおとどあるに
院忍びてまかでさせ給ひて御渡りあり
義将左兵衛督、盡弾正
まさひろ武蔵丞
七重勾当内侍、小式部内侍などさぶらひたり








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