水無月 文月 葉月 長月



水無月一日

糸所におはしましてご覧ずるに
暑くなりにたれば単の衵など縫へなど仰せたり
左兵衛督、宿直にさぶらひぬ



水無月二日

興福寺の御仏来迎したりけりなど
聞こし召して拝み奉らせ給ひなむとて
つとめて御出でさせ給ひぬ
少将、左兵衛督、陸奥守などさぶらひぬ
いとありがたき御仏おはします中に
阿修羅の御形いとめでたがらせ給ひたれば
かへすがへすぞ拝ませ給ひぬる

管弦の御遊びめでたうせさせ給はばやとて
君達、女君あまたさぶらはせて
御自ら弾き歌ひなどせさせたまひて
少将、左兵衛督などに調べ合はせさせなど
せさせ給ひつつ術などまねばせ給ひつ



水無月七日

ぬらりひやんとかいふ物の怪
あやしきわざして文おこして
くがね賜べ、とく賜べなど
むくつけなどおぼゆ



水無月十五日

内教坊の君、天竺にわたりてむとて
十七日にたつべきよし文おこせたり



水無月十九日

少将、宿直(とのゐ)に参りてさぶらひたり



水無月二十日

まさひろ武蔵丞、楽の音をあはするに
めでたき術をばえてしがななど
うちあはせなどしたるをご覧じて
御自らあはせさせ給ひぬ
いとかしこし



水無月二十五日

わたらせのたくみのかみとかいふもの
いとかたちめでたしなど聞こし召して
御文賜はりなどしたるめり



水無月二十八日

武蔵丞、管弦の宴ものして
めでたうしたるなどきこしめして
下高井のなにとかといふところに
忍びて御わたらせたまひぬ
君達さぶらひてをかしう
調べあはせておはしましつるこそ
あはれにおぼゆれ



文月



文月三日

前のうるふ衛門督、いとむくつけき物の怪に
なりにければ、あさましう往につるに
女君などをばあやしう求めて
あさましきわざしたるなど
やうやう聞こえて
穢れ祓ひぬべしとて
さるべきいのりどもせさせ給ひぬ
げにもなのめになめき前のうるふ衛門こそ
あさましけれ



文月六日

御腹いと苦しませ給ひて
御病得させ給ひたる御気色にて
典薬が術して、御腹に
鏡などいれ奉りて障りたるをば
見たてまつりて病おこたるべう
ものするわざなどし奉りたり
いとおそろしき技なり



文月十三日

遠江たくみのかみ、文おこして
蹴鞠などご覧じ入れにしがななど
院、喜ばせたまひたれど
せさせ給ひぬべきことども
いと多ければえご覧ぜずおはしましたり



文月十八日

管弦の宴あり
例の御所に君達、女君いとあまた
さぶらひて上下調べあはせたり

夜もふくるほど、近きほどへ
わたりて夜あくるほどに果つるに
院にも御出でさせ給ひて
おはしまして御物語などせさせたまひぬ



文月十九日

糸所へおはしまして
たわぶれにとて
御てづからおんぞども縫はせ給ひぬ
めでたき袿得てしがななどのたまひて
いとめづらかなる紅の織物など
ご覧じてめでさせ給ひぬ
女君、紅の袴ども縫ひたるめり

遠江たくみのかみ、なめきことありとて
文奉りたるよし
心ありとおぼしめして
しのびて御わたりあり



文月二十一日

義将左兵衛督、もの言ふべきことありとて
遠江をば制したるに、いみじきことどもも
ひとつもうさで、さらなりとて聞きたるさま
めでたしなど聞こし召したり



文月二十三日

ものすべきことどもいと多しとて
よもすがらはえさぶらはでもとて
勾当内侍、夜さりつかた急ぎ参りて
御物語など申したり



文月二十八日

中の江の少納言より文あり
長月つごもりつかた
管弦の宴まうけむとするに
院にも御わたり給はらなむとぞ
受けさせ給ひてむとて
そのよし仰せられつ



文月月籠

義将左兵衛督、宿直(とのゐ)にさぶらひぬ



葉月



葉月一日

いくたとかいふ山里に
みづらかなる絵などある殿あるに
そのわたりに楽の遊びせむとて
君達、女君、にはかにをさなきところも
あるに、調べあはせたれば
御いでさせたまひて
きこしめし、ご覧じなどしたり
いとよう打ちあはせなどしたる音なりとて
めでさせ給ひぬ



葉月六日

右近中将、めでたきひなりとて
祝言などのたまひたり



葉月九日

相模の海に御渡りあり
忍びて渡らせ給ひたるに
心ある君達、女君などいとあまたさぶらひぬ
近衛のぶひさ少将、義将左兵衛督、
神戸大蔵輔、院宣旨の君
高嶺少納言、盡の弾正弼などひとあまたなり



葉月十一日

糸所におはしましたり
はた、御てづから縫ひたるもあり
紅の織物裁ちなどせさせ給ひて
袿にしなさむなどせさせ給ふもいとをかし



葉月十五日

君達、女君、武蔵国へ行きて
たはぶれ遊びなどしたるに
院には例の方におはしまして
さぶらふひともいと少なきに
楽のならひいとさかんにおはしましたり
神戸大蔵の輔さぶらひたり



葉月十六日

右近中将、陸奥国へくだりて歌枕など見て
まいらむとするにいと惜しませ給ひぬ
十九日のほどにはかへり参らむとし給ふに
あしのふしのまもとや思したるらむ



葉月十八日

遠江たくみのかみ、とのゐにさぶらひぬ



葉月二十一日

いとめでたき祭あるに
忍びておはしましてご覧じたり
あつきとかなにとかいふ所なり
管弦の遊び、殊におもしろしとて
御手を打たせたまひたり



葉月二十五日

伊勢神宮の宝物などご覧じにとて
まかでさせ給ひぬ
のぶひさ少将、勾当内侍、朝倉内侍、なるしろの綾音君さぶらひぬ
鶴ヶ丘の御衣などご覧じていとめでたがらせ給ひたり
松尾の御社の神などもかしこうたてまつりたれば
ご覧じ奉りて拝み奉らせ給ひぬ



長月



長月四日

善光寺に詣でさせ給ひぬべしとて
御いでさせ給ひぬ
信濃国にて弾正弼さぶらひて
御寺にぞ詣でさせ給ひぬ



長月五日

山に籠りおはしまして
管弦の遊びなどせさせたまひぬ



長月七日

今ひとたびとて
善光寺に参りたるに
神戸大蔵輔が車に奉りて
大蔵輔、のぶひさ少将、義将左兵衛督、盡弾正弼
さぶらひて詣でさせ給ふ

御仏に結縁せさせ給はばやとて
瑠璃壇の下にあゆませ給ひて
御仏に結縁せさせ給ひつ
いとかたじけなきことに
よろこばせ給ひたり



長月九日

重陽とて遠江たくみのかみとのゐに
さぶらひつ



長月十日

左兵衛督、遠江内侍とのゐぬさぶらひぬ



長月十二日

武蔵丞、矢崎小式部、さぶらひて
ものがたりなどせさせ給ひたり



長月十四日

朝倉内侍、平井命婦、横尾衛門佐、
とのゐにさぶらひぬ



長月十五日

風にはかに寒しなどおぼゆるほどになりぬ
常の年よりは少し早からむ
虫の音もあはれにきこゆるほどなり
遠江たくみのかみ宿直(とのゐ)にさぶらひたり



長月一七日

御悩みいと篤し
ものも参らでおはします
御おぼえめでたきたくみのかみ
謀り奉りて御心いと悩ませ奉りたり
臥しおはします



長月二十二日

夜も更くるほど、遠江はた
謀り奉りたり
このこと後に聞こゆることなり



長月二十六日

中の江の少納言、管弦の遊びしたりつるに
しのびておはしまさむこそと申したりつれば
さらなりとておはしましつ
嬉しげにおはしますこそめでたけれ



長月二十九日

世の中いとさはがしう
御心やすからずおはします
右近中将、ものつきたる気色なり
まかり出でたるをご覧じて
われかの御気色なり



神無月



神無月八日

やうやう御病おこたりて
少し御気色ようならせ給ひたるめり



神無月十八日

外つ国にわたりたる百々てふ
いとめでたく調べあはする人あるに
ご覧じにまかでさせ給ひたり



神無月二十日

この百々てふ人、はた調べあはするよし
聞こし召したれば、けふはた御いでさせ給ひにたり



神無月二十五日

院の御袿に紅のいとめでたくて
好ませ給ひたれば
これ見せてむとて
御もとよりつかはして
人あまた見るべきところになむ
置き据ゑさせつ
奉りたる御衣など見奉るべうもあらざれば
人いとめでたがりてうち寄せたるなり



神無月三十日

祭ありとて御渡りあり



霜月



霜月一日

祭りに御自らおはしまして
調べあはせたり
左兵衛督、少将、盡弾正さぶらひて
音をばあはせたてまつりたり



霜月二日

遠江たくみのかみ、とのゐに参りたり



霜月三日

宴あり
小式部内侍、大蔵大輔、少将、左兵衛督など
ひとあまたさぶらひにたり



霜月四日

御畳参れなどのたまはすれば
高麗ばしなどぞ奉りたる



霜月九日

御面に光など参りて
めでたうする術ありときこしめして
をかし、せばやなどのたまひて
日をおかで、さてまかり出でさせ給ひつ



霜月十二日

めでたき畳、三ひら参りたり
ご覧じて、めでたし
これにうげんの縁して
奉れなどおほせたり

遠江たくみのかみとのゐに参れり



神無月



神無月八日

やうやう御病おこたりて
少し御気色ようならせ給ひたるめり



神無月十八日

外つ国にわたりたる百々てふ
いとめでたく調べあはする人あるに
ご覧じにまかでさせ給ひたり



神無月二十日

この百々てふ人、はた調べあはするよし
聞こし召したれば、けふはた御いでさせ給ひにたり



神無月二十五日

院の御袿に紅のいとめでたくて
好ませ給ひたれば
これ見せてむとて
御もとよりつかはして
人あまた見るべきところになむ
置き据ゑさせつ
奉りたる御衣など見奉るべうもあらざれば
人いとめでたがりてうち寄せたるなり



神無月三十日

祭ありとて御渡りあり



霜月



霜月一日

祭りに御自らおはしまして
調べあはせたり
左兵衛督、少将、盡弾正さぶらひて
音をばあはせたてまつりたり



霜月二日

遠江たくみのかみ、とのゐに参りたり



霜月三日

宴あり
小式部内侍、大蔵大輔、少将、左兵衛督など
ひとあまたさぶらひにたり



霜月四日

御畳参れなどのたまはすれば
高麗ばしなどぞ奉りたる



霜月九日

御面に光など参りて
めでたうする術ありときこしめして
をかし、せばやなどのたまひて
日をおかで、さてまかり出でさせ給ひつ



霜月十二日

めでたき畳、三ひら参りたり
ご覧じて、めでたし
これにうげんの縁して
奉れなどおほせたり













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