院別当の君日記

平成十八年


水無月


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水無月三日

ふりにし程、例の御所にさしつどひたりし
年の寄りたる御方々
宴せむずらむと聞こし召して
御わたらせ給ひつ
むかしのことども、
物語などきこしめして
をかしと思し召したりつめり

管弦の御遊びなども
せさせたまひぬれば
いとをかしきうたげにこそ

少将、衛門督、大蔵輔
つくし弾正弼、刑部少輔
澤山大外記
小式部内侍、院宣旨など
女君もさぶらひて御渡りありぬ


昼つ方、大納言より御文あり
いにしへのをかしきことども
物語などものせむとぞ
いとこのませ給ふことなれば
よろこびておはします



水無月四日

峰の物の怪、地のしたに入りて
物の怪どもをつどはせて
悪しきことども謀りてあるよし
陰陽師申しければ
人々まうけて、
調伏の加持などしけり
峰の物の怪、文おこして
文のうちにむくつけき
笑ひ様などみえて
皆人怒りてやある
などざれてあれば
いとあさましかりけり
峰の物の怪、おのが汚きものなど
地の下におきてあめるを人々、
加持などして調伏したるとや



水無月七日

真紀の君より御申し文あり
あるじまうけせむとすれば
御渡りあらまほしとこそ



水無月八日

少し悩み深くておはします
少将、衛門督、よき薬師などもとめたるよし
聞こし召してうれしう思したるめり



水無月九日

糸所にものしたるに
ひねりはかくすべしとて
御手づからせさせ給ふに
大納言、御文にて
かうせむこそよからめなど



水無月十三日

例の御所におはしまして
管弦の御遊びなどしたるのちに
人々みなさぶらふ日なれば
院宣などせさせたまひたり



水無月十七日

糸所に籠りおはしまして
禄などに賜ふべきもの
なさむとてものせさせ給ひぬ



水無月十九日

真木の君、あるじまうけすれば
しのびて御渡りておはします
めでたき菓子などあまた奉りて
管弦の遊びなど物語がやうなり
御姉の君、御兄の君など参りて
みな絵などあひ御覧じて
物語しなどせさせ給ひたるに
いとをかしき夜にこそありつれ



水無月二十日

蛍の里に、御渡らせ給ひて
御覧じにたり
あまた飛び違ひていとあはれなり

少将、宿直したり



水無月二十三日

今宵もとて
蛍の里におはしましたり
いと多くはあらでひとつふたつ飛び
たるなり
かかるもはたをかしなど
思したるめり
大蔵少輔、衛門佐
宣旨の君などさぶらひたり


水無月二十五日

刑部大丞、いとめでたき衣をば
見いでたりとて
院には奉りにたり
いと嬉うおぼしたるめり



水無月二十六日

雨、五月雨につきづきしき降りやうなり

中の江の少納言宿直してさぶらひつ



水無月二十七日

少し曇れるに
雲間を行く月をば見むとて
大蔵少輔、院宣旨さぶらひて
夜語りにせさせたまひつるに
夜も更けぬれば
院にかへりおはしまして
少し悩ませ給ひたる御気色にておはしましたれば
かむべ大蔵少輔、宿直したりぬ
桜の実といふなるもの
きこしめしつるままに
大蔵少輔には賜ひつれば
うましなどいひつつぞ
食ひたるもをかし



水無月二十八日

例の御所におはしまして
夜語りなど
大蔵少輔、弾正弼、衛門督
少将、陸奥守、院宣旨
などさぶらひたり
陸奥守の心の清きさまなど
きこしめして、いと感じさせ給ひて
おどろきておはしますめり



水無月三十日

衛門督、宿直したりつ






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