春の火桶「現代語訳」



注意

だいたいの意訳です。古典の勉強ではないので、
歌の細かい技法などは極力省き
掛詞など、意味を汲みとる上で必要なもののみ簡単に解説する場合が
あるという程度にしたいと思います。

 2月頃(今で言う3月下旬ごろ)、一日中雪が降って、とても
 寒い日がりました。
 
 院の御所でも、格子戸などもすべて下ろしていたところに
 人の使いとのことで、品のある女童が火桶を持ってやってきました。
 院は「春には似合わない光景なことだ」と感じられているところに
 火桶を差し入れてきたのですが、梅の香りの御香を混ぜてあるので
 しょうか、ほのかに梅の香りがしてきました。

 院は心にくい気遣いだと感じられて、火桶の中を御覧になると、
 銀の炭をはさむ箸に薄紅梅色の手紙が結んでありました。
 手紙をお取りになって御覧になると、

 梅の香の 匂ひおこせば 今をしも 春や来つると 冬の雪なむ

 掛詞  おこす・・・遣す・起こす  ゆき・・・雪・行き              

 (梅の香りを起こして、そちらにお送りしましたので、もう春だと
  冬も、雪も行ってしまうことでしょう)

     もう、春だと思っていましたのに(このような日があるのですね)

 と、書いてありましたので、院は素晴らしいとお思いになって、
 すぐに御返事をしようと、とても濃い紅の上質の紙に

 雪ならで これをこそ見め 匂いたつ 梅に添うべき 春のたよりに

 (雪ではなくて、これを見ましょう。匂い立つ梅にそえる春の機会に)

 とお詠みになって、例の絵や餅だんという御餅を包んで下されたとか
 ということでした。




  ※2月に「列見」という行事に公卿・諸臣に共される餅だんという御餅を
   モチーフにしました。

 

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