絹のあかき「現代語訳」 




注意

だいたいの意訳です。古典の勉強ではないので、
歌の細かい技法などは極力省き
掛詞など、意味を汲みとる上で必要なもののみ簡単に解説する場合が
あるという程度にしたいと思います。

  院の御所に御仕えしていた人で、関東に下った人が、
  大変素晴らしい絹を手に入れたということで、
  院にお送りしました。

  院は、これを御覧になって、

  「おお、素晴らしい絹々だなぁ。この赤いのは特に素晴らしい。
   これほど素晴らしい絹を、単にさっさと縫わせて着物にしてしまうというのも
   おもしろくないので、そうはしないで、小粋な発想の人に送って、
   『この絹の布を何に仕立てたらよいか』と尋ねてみたいなぁ」

  とお考えになりました。


  数年来、院の御所に泊まりに来ては、院と朝まであれこれと御話をしたりする
  ような関係で、恋人とかいうような関係ではない内侍(ないし・・・女官)のいらっしゃるのを、
  思い出されて、院は、この内侍に尋ねてみようとお考えになりましたが、
  この内侍は、現在お出かけになっていました。

  そこで、院は、とても赤い絹の巻いてある反物に、少し色づいたもみじの枝を添えられて
  その葉に

  あづま路の 山の紅葉は かくとしも 色づき染むる 心をやしる

  (関東の 山のもみじは このように 色づき、染まりはじめています 
   その心がわかりますか?)

  とお書きになって、内侍にお送りになりました。


  10日くらい過ぎたある日、たいそう品のある童(手紙などを届けたり、雑事を担当する少年従者)が
  とても素晴らしい装飾を施した箱を持って院の御所にやってきました。
  院は、「なんだろう」と童を招き入れて、箱の中を御覧になると、
  とても素晴らしい「袴」が縫いあがっていて、腰のヒモがギュッと結んでありました。
  そして、紅色の上質な紙に

  「世の秋を 見むに色にや 染みにける 下解きて問へ 身にはしられじ

         あまたたび あき見たる袴なるめれば、その心知りて侍らむ
   

   (世の中が秋になったから 赤く染まったのでしょうか、この袴の紐を解いて
   この袴(下着)にでも尋ねてみてください。私にはわかりません。
   沢山の「あき(秋・飽き)」(恋に飽きたという意味を掛ける)を見てきた下着でしょうから、
   もみじが秋という季節で色づいているのか、
   それともあなたが誰かに恋して色づいているのか、その答えを知っているでしょうから。


   院は、とてもおもしろがられて、

   「このように、おもしろいセンスをもっていてこそ、素晴らしい袴を作ってくれたことよ。
   『私にはわからない』とか言っているところ(わからないといいながらも
   ちゃんとツボを押さえているところ)が心にくいなぁ」と仰せになって、
   お笑いになりました。


  

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